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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)14000号 判決 1999年3月29日

原告

森辰巳

原告

加納稚己

原告

木下勝彦

原告

木脇精進

原告

本浩

原告

和田充敏

右訴訟代理人弁護士

出田健一

城塚健之

篠原俊一

被告

大阪名鉄観光バス株式会社

右代表者代表取締役

茂利治孝

右訴訟代理人弁護士

中谷茂

山口勉

主文

一  原告らが、被告の従業員たる地位を有することを確認する。

二  被告は、原告らに対し、別紙請求債権目録(一)記載の各金員を支払え。

三  被告は、原告らに対し、別紙請求債権目録(二)記載の各金員を、その各支払期かぎり支払え。

四  本件訴えのうち、その余の請求部分を却下する。

五  訴訟費用は全部被告の負担とする。

六  この判決は、第二項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  主文第一項及び第二項同旨

二  被告は、原告らに対し、別紙請求債権目録(三)記載の各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告が、被告とユニオン・ショップ協定を締結している労働組合を脱退して別組合に加入した原告らを右ユニオン・ショップ協定に基づき解雇したところ、原告らが、別組合に加入した者に対してなされたユニオン・ショップ協定に基づく解雇は解雇権を濫用するもので無効であるとして、被告の従業員たる地位の確認及び賃金等の支払を求める事案である。

一  前提事実(いずれも当事者間に争いがない事実及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実である。)

1  当事者等

被告は、一般貸切旅客自動車運送業、旅行斡旋事業等を目的とする株式会社であり、肩書地に本社を有し、他に営業所はない。被告の保有バス台数は四五台、従業員数は約一〇〇名である。

被告には、従業員の労働組合として、日本私鉄労働組合総連合会に加盟し、同労組関西地方連合会に所属する企業別組合である大阪名鉄観光労働組合(以下「大阪名鉄労組」という。)と、原告らの所属する全日本運輸一般労働組合(以下「運輸一般労組」という。)とがある。運輸一般労組の下部組織として、同労組中央支部(以下「中央支部」という。)がある。

原告らは、被告に雇用され、いずれも大型観光バスの運転業務に従事していた。原告らは、雇用後は全員が大阪名鉄労組に加入し、原告加納(以下、原告らは氏で特定する。)、同本及び同和田は、いずれも大阪名鉄労組の執行委員にも就任したことがあったが、左記の時期にそれぞれ大阪名鉄労組を脱退し、運輸一般労組に加入した。そして、平成一〇年八月二四日、原告森、同加納、同木脇、同本及び同和田の五名が運輸一般労組中央支部大阪名鉄観光バス分会(以下「分会」という。)を結成し、被告に右結成を通知した。分会長は原告森、副分会長は同本、書記長は同加納であった。

原告 脱退・加入年月日

森 平成九年七月二八日ころ

加納 平成一〇年八月二四日ころ

木下 平成一〇年九月一六日

木脇 平成一〇年八月二四日

本 平成一〇年八月二四日ころ

和田 平成一〇年八月二四日ころ

2  本件解雇

被告は、平成一〇年一〇月一一日、原告ら六名を同月一二日付で解雇するとの通知を原告らに発送し、右通知は翌一二日に同人らに到達した(以下「本件解雇」という。)。本件解雇は、原告ら六名が大阪名鉄労組を脱退したことを理由に、大阪名鉄労組と被告との間で締結されたユニオン・ショップ協定(労働協約第三条。以下「本件ユニオン・ショップ協定」という。)に基づいてなされたものであり、それ以外の解雇事由に基づく普通解雇もしくは懲戒解雇ではない。右労働協約第三条は、「会社の従業員は、第四条に該当する者を除き、この組合の組合員とならなければならない。従って、組合に加入しない者または、脱退した者は会社が解雇する。」と定める。

3  原告らの賃金

原告らへの賃金は、毎月一五日締めの二五日支払であった。原告らの本件解雇前三か月の賃金の平均額は、別紙請求債権目録(三)記載のとおりである。

また、被告の平成一〇年度冬季一時金は、請求債権目録(一)記載のとおりの金額で妥結しているにもかかわらず、被告は右一時金を原告らに支払わない。

二  争点

ユニオン・ショップ協定に基づく本件解雇の効力

三  争点に関する当事者の主張

1  原告

ユニオン・ショップ協定のもとでも労働者個人には自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、ユニオン・ショップ協定締結組合(以下「締結組合」という。)の団結権と同様、同協定を締結していない労働組合の団結権も等しく尊重されるべきである。したがって、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されない。ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退しまたは除名されたが、他の労働組合に加入しまたは新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法九〇条の規定により、無効である。

そうすると、本件解雇は、ユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務が生じていないのに被告がなしたものであるから、客観的に合理的な理由を欠くものであり、社会通念上相当なものとして是認することができず、ほかに解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効である。そして、本件においては、右特段の事由はない。

2  被告

以下のとおり、本件解雇は有効である。

(一) 労働者の団結権、労働組合選択の自由は、労働者の労働条件を適正に維持改善するために行使されなければならないのであり、他の目的のために行使することは許されない(内在的制約)。労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害しない場合には、ユニオン・ショップ協定による解雇の威嚇の下での特定労働組合への加入強制は許されるから、ユニオン・ショップ協定のうち、団結権の行使(それによる労働条件の維持改善)以外の目的で締結組合を脱退し、他の労働組合に加入した者について、使用者の解雇義務を認める部分は有効である。

本件ユニオン・ショップ協定は、労働者が、単に、締結組合である大阪名鉄労組と活動方針が合わないという理由、もしくは、労働条件の維持改善をするという理由で、組合選択の自由の行使として正当に団結権を行使するために脱退したにすぎない場合にまで被告に解雇義務を負わせるものではない。脱退する労働者の目的、行動が、締結組合である大阪名鉄労組の組合員の目的(団結権を行使して大阪名鉄労組に結集して得ようとする利益)に基本的に反する場合、すなわち、大阪名鉄労組の組合員の具体的、個別的利益を侵害する目的で大阪名鉄労組の統制から逃れるために脱退して、現に組合員の利益を侵害する行動に出た場合には、解雇の威嚇の下に脱退しないことを強制することは、労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害しない場合として許されるというべきであり、本件ユニオン・ショップ協定も右のような場合の被告の解雇義務を定めたものとして有効である。

(二) 原告らが大阪名鉄労組を脱退したのは、その内部規律や統制権の拘束を免れ、徒党を組んで被告の業務を暴力的に支配し、大阪名鉄労組に加入する従業員の犠牲において走行キロ手当の増額等の個人的な利益を獲得したり、大阪名鉄労組の団結権を侵害するという不当な目的のためであり、運輸一般労組に加入したのは、本件ユニオン・ショップ協定による解雇を回避するためである。現に、原告らは、被告に対し、組合活動と称して脅迫的、暴力的な普遍的に反価値性を有する言動に出て業務妨害をした結果、原告らの権利を獲得してきたが、それに反比例して、大阪名鉄労組の組合員の利益を侵害した。原告らのこのような不正目的での脱退及び加入は、労働組合選択の自由、団結権の濫用である。このような場合、締結組合は、組合員の利益を守るために、このような労働者の行動を阻止する必要があるが、組合を脱退した者には統制権が及ばなくなり、内部規律により阻止することができなくなるので、使用者に対して解雇を求めるしか方法がない。被告は、平成一〇年九月二九日、大阪名鉄労組から、同労組を脱退した原告ら六名を、本件ユニオン・ショップ協定に基づいて解雇するよう要求され、解雇しない場合はストライキを行う旨予告されたため、本件ユニオン・ショップ協定に基づいて大阪名鉄労組に対して負う解雇義務の履行として本件解雇に及んだ。

したがって、本件解雇は原告らの組合選択の自由及び他の組合の団結権を侵害するものではなく、本件ユニオン・ショップ協定に基づく本件解雇は、その合理性を裏付ける特段の事由(不当な目的での脱退、加入、すなわち、組合選択の自由の濫用)があるというべきであるから、社会通念上相当であり、解雇権の濫用ではなく有効である。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  本件ユニオン・ショップ協定の効力

1  ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきであるから、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法九〇条の規定により無効と解すべきである(最高裁判所平成元年一二月一四日第一小法廷判決・民集四三巻一二号二〇五一頁参照)。

これを本件についてみるに、本件ユニオン・ショップ協定は、「会社の従業員は、第四条に該当する者を除き、この組合の組合員とならなければならない。従って、組合に加入しない者または、脱退した者は会社が解雇する。」と定めているけれども、右に述べたところからすれば、締結組合から脱退したが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者については、使用者の解雇義務は生じないというべきである。

2  被告は、本件ユニオン・ショップ協定のうち、団結権及び組合選択の自由を濫用する労働者について使用者の解雇義務を認める部分は有効であるところ、原告らが大阪名鉄労組を脱退したのは、その内部規律や統制権の拘束を免れ、大阪名鉄労組に加入する従業員の犠牲において走行キロ手当の増額等の個人的な利益を獲得したり、大阪名鉄労組の団結権を侵害するという不当な目的のためであり、運輸一般労組に加入したのは、本件ユニオン・ショップ協定による解雇を回避するためであるから、被告は団結権及び組合選択の自由を濫用した原告らを解雇する義務を負う旨主張する。

しかし、被告が原告らによる団結権の濫用であると主張する内容は、結局のところ、原告らが運輸一般労組に加入して使用者と団体交渉をすることによって権利を獲得した結果、その反射的効果として大阪名鉄労組ないしはその構成員の利益が侵害されたというものに過ぎない。別の組合に加入した労働者に対するユニオン・ショップ協定に基づく解雇が許されないという趣旨が、労働者に組合選択の自由を保障し、締結組合以外の労働組合にも団結権を保障しようとする点にあることからすれば、被告が団結権及び組合選択の自由の濫用によって侵害されると主張する利益は、法律によって保護されるものではないというべきである。

二  本件解雇の効力

1  ユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務が生じていないのにされた解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、解雇権の濫用として無効と解すべきである(最高裁判所昭和五〇年四月二五日第二小法廷判決・民集二九巻四号四五六頁参照)。

これを本件についてみるに、本件解雇が、原告ら六名が大阪名鉄労組を脱退したことを理由に本件ユニオン・ショップ協定に基づいてなされたものであり、それ以外の解雇事由に基づく普通解雇もしくは懲戒解雇ではないことは当事者間に争いがないところ、前述のとおり、別組合に加入した原告らについては、本件ユニオン・ショップ協定による解雇義務は生じていないから、本件解雇は、被告に解雇義務が生じていないのになされたものであり、解雇権の濫用として無効である。

2  被告は、原告らは労働組合選択の自由及び団結権を濫用しており、本件解雇は、その合理性を裏付ける特段の事由があるから、社会通念上相当であり、解雇権の濫用ではなく有効であると主張する。

右特段の事由の主張が、単に被告が大阪名鉄労組に対して原告らの解雇義務を負うという趣旨か、右解雇義務が認められないとしても本件解雇の合理性を裏付けるという趣旨かは必ずしも明かでないが、前述のとおり、被告が原告の団結権及び組合選択の自由の濫用によって侵害されると主張する利益は、法律によって保護されるものではないから、いずれにしても被告の主張する原告らによる労働組合選択の自由及び団結権の濫用は、本件解雇の合理性を裏付ける特段の事由にはなり得ないというべきである。

三  訴えの利益

原告らは、毎月の賃金につき将来の給付を求めるが、被告の従業員たる地位を確認する旨の判決がされた場合であっても、原告らの労務提供がいつまでなされるかは不確定であるから、原告らの本件訴えのうち、本判決が確定した後の賃金の支払を求める部分については、訴えの利益を欠くというべきである。そこで、右部分は不適法なものとして却下する。

第四結論

以上の次第であるから、本件の訴えのうち、本判決確定後の賃金の支払を求める部分は却下し、その余の請求部分は認容し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 谷口安史 裁判官 和田健)

<別紙> 請求債権目録(一)

森 五五万一六一六円

加納 五五万二四〇八円

木下 五五万三二〇〇円

木脇 五五万六五〇〇円

本 五八万四〇八八円

和田 五二万六八〇〇円

<別紙> 請求債権目録(二)

平成一〇年一〇月以降、本判決確定に至るまでの期間についての左記の賃金。ただし、最終の支払期間が一か月に満たないときは、現実の勤務日数を予定勤務日数で除した日割計算とする。

支払期 各月一五日締め当月二五日支払金額

森 三七万三〇五四円

加納 三七万七五一三円

木下 三九万二九〇二円

木脇 四〇万一〇四五円

本 三八万五五五九円

和田 三三万二一〇〇円

<別紙> 請求債権目録(三)

平成一〇年一〇月以降毎月二五日限り

森 三七万三〇五四円

加納 三七万七五一三円

木下 三九万二九〇二円

木脇 四〇万一〇四五円

本 三八万五五五九円

和田 三三万二一〇〇円

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